Ilice's Review (18)
The Tube (EP)
artist:DJ Tiesto
label:XTC
では個人でレコード屋なんて本当に儲かるのだろうか?ぶっちゃけた答えは限りなく「NO」である!結構名の知れているレコード屋であっても実際はぎりぎりでやっている所も多い。まず手間取るのは賃貸料、日本は世界で一番この経費がかかる!店を出すならある程度名のしれた土地に借りなくては仕方がない。いくら都内でも奥多摩に本店があっては誰も寄り付かないし(奥多摩の方ごめんなさい)、熱海などの観光地もあまりにテーマが違うのでまずいと思う。内装費でも気をつけなければいけない。その物件が住宅街であるなら重要視されるのは防音。防音性の高い内装工事も請け負ってくれる業者もいるが無論かなりかかる。割とかかるのがショップオリジナルの買い物袋やラベルなど、これらは消耗品になるのでしっかりと見据えたものを作らないといけない。そしてどんな商店でも同じだが人件費と光熱費!経営顧問の顧問料と従業員給与も悩まされることだろう。光熱費にいたっては一日中電力の食うオーディーオ機材をかけているのだから結構いってしまうだろう。実際毎年のようにレコード店が潰れるのは財政難がほとんどとみていい。しかし毎年新しいレコード店が開くのは好きで好きでたまらない情熱からなのだ。それでも個人の中古レコード店がなかなかないのはそれでも見通しが本気で立たないためだ。市場調査は個人ではほとんど無理である。情熱だけでは難しいが勇気を出して開店するレコード屋にリスナーである我々は賞賛を惜しんではいけない。
さて、今回はDJ TiestoのThe Tube (EP)をご紹介。目立たない名曲だがこのようにアナログはリリースされており、あまつさえ売ってしまう人だっている。XTCからのディストリ物なので更に目立たない気もする。三曲入りのEP仕様でタイプの違う三曲がおいしく収録されている。ちなみに渋谷のSPICEレコードで¥600で購入した。ではMIXを見ていこう。
まずはThe Tube。割とおとなし目のオープニングだが妙なシンコペーションとマッチして一分も過ぎれば十分浸れる。浸っていると入ってくる気持ちのよい伸びのあるメインのシンセでまた引き込まれる!ブレイクもブレイク明けも割とおとなし目なので持続で使うといいだろう。同氏のURBUN TRAINからつなぐと鉄道つながりで面白いかもしれない。続いてShandar。結構派手目なキックのオープニングと小気味良いクラップそしてささやくようなアトモスフィアと待ってましたの展開!だがメインのシンセが入ると割とはねるような音で展開する。それでも妙にしっくり来るのは流石!良い意味での裏切りを見せてくれる。そして、ブレイクというよりは転換的な音使いがなされた後半も聴き所。つなぐというよりは全部を出してMIXするほうが面白い。前半の要として使うとまとまるのではなかろうか。…だが…タイトル何語だろう?自分の辞書には該当語がない…Thandarの間違いでは?そしてLong Way Home。しっかりとした四つ打ちで音使いはどちらかというとプログレな前半で結構しっとりダークに進む。メインのフレーズはバッキングのシンセでウォームパッドと絡めあい渋い世界を堪能できる。後半はトリルが入るなどの違和感は揺らぎの心地よさを存分に堪能出来る。プレイでも盛り上がりも終わった後半、終わり際なんかにかけるとタイトルと相まって効果ありそうだ。ただアウトロが割とブッツリ切れるので最後この曲にするなら何か工夫しないといけないだろう。
この三曲に共通するのはどれもインスト物ということ。歌もの続いた時の清涼剤としてシーンによって使い分けられる濃い内容だ!こんなの売るなんてトランスのDJ目指すなら正気の沙汰ではない…まぁ、トランス止めたんだろうけど…。
Got The Chance
artist:Yomanda Vs DJ Uto
label:You Clash
流通の最前線は小売店だ。今回は新譜と中古のやりくりを軽く見て行こう。大体今小売の通常の相場は三掛けが主と見ていい、価格10に対して原価は約3位である。実際はコレに包装費や管理費が含まれ利益は10に対して約2くらいに落ち着いてしまう。つまりレコード新譜が大体¥1200なので一枚あたり原価は¥360かかり、¥240の儲けが出ることになる。気がついただろうか?この時点で¥120損してることに注目していただきたい!小売の経営において一番難しいのは実はここ、儲けるためにはこの差を無くさないとどの道立ち行かなくなってしまうのだ。無論管理費等の5をどうするかによって決まるのだ。昔、懇意にしていた店を例を挙げると…まず新譜を入荷した際はビニール包装、値付けをせず¥1200で販売する。続いてそれが旧譜になるとビニール包装をして¥1300に値上げ、そして発売半年たつと更に値上げする。こうやって時間により利益率変えることによってマージンを取る。値上げのたびに在庫確認をしっかりすれば棚卸の必要もなく人的経費も少なくてすむという大胆なようで練られた手だ。だが、賢明な方は気が付いたと思うが「他の店が普通の値段ならどうするの?」とおもう。無論この方法はそのジャンルは他では置いていないという独占販売でないと出来ないことを理解していただきたい。つまり、大手は大量仕入れによる仕入割引での利益率捻出が出来るが、個人は他ではない品揃えで少々高くても出す価値のあるものを置かないといけないのが道理であるのだ。中古でも利益を捻出しないといけないのは新譜と同じ。でも一枚¥300程度で先ほどの新譜の計算に当てはめると利益は¥60しかない…となると売り手から買い叩くほかない。そうこの価格で売られているものは¥10〜¥30という低い価格で買い叩かれてることが殆ど。そうなると大体採算は合ってくるのだ。特にクラブミュージックは需要が難しい…買い取った物に本当に確かな需要の確証がないのでどうしてもこうなってしまう。反面、ヒットチャートに入るような曲なら確かな需要が期待できるので高価買取してもその分高くても売れる。また、DJの選曲により大きく変わり、有名なパーティーやMIXコンピレーションでの選曲が一気に売れる原因だったりするので売り手側は細かくチェックする必要があるため大変だ(シスコなどは顕著)。結局の所流通はその名の通り常に目まぐるしい速度で流れているので、消費者は足しげくレコード屋に通うほか攻略法がない。
さて今回のYomanda Vs DJ UtoのGot The Chance割と新しい曲だが池袋のディスクユニオンで¥600で購入した。定価の半額であるが思い切って買ってしまった。かの「マネーのトランス」収録曲であり話題性はあったからだ。関係ないがこのCDは700万円程度の出資であったが実際の所は2、3回TVで取り上げられたので下手すると¥2000万円以上の広告費が浮いているのを注目したい。どう考えても成功が約束された出来レースでしか感じないのは私だけではないはずだ。ではMIXを見ていこう。
まずはDUB Mix。まぁとにかく派手…しかしハードハウスほど音がシャープではなく上物もチープ。キックとベースがそこそこ良いのでこれならこれだけでやれば良いのにのけっるのが悪い所だ。中盤のピアノのブレイクもチープで欠伸がでる、上手くブレイクを被せずに前半だけなら面白いかもしれない。そしてOriginal Mix。正直DUB Mixにシンセフレーズが乗っただけでしかも耳障りでしかない。私には使い道を見出せなかった…久々に自分の無力さを痛感した一枚となってしまった。
きっと売ってしまった人も使い方を見出せなかったのだろうか?そうなら私と考えが合う気がするのだが…。
Tranzy State Of Mind
artist:Push
label:Superstar
クラブミュージックが日本で違和感持たれるのはなんといっても会社(レーベル)の体質の違いだ。今回はその辺を軽く解説しつつ曲を見ていこう。最近日本でも「○○というアーティストがレーベルを立ち上げる」と聞くがどういうことだろうか?レーベルは基本的に自分の作品を管理する会社と思ってよい。だが、その実日本ではレーベルを立ち上げたは良いが全然立ち行かなかったり、全然名前が出ない場合がある。やはりコレは考えの無い経営手段に問題あるからの場合が多い。大体むこうでレーベルを立ち上げるとまずは核になるアーティストはまずプロデュースに走る。出資をしてくれる所を探すのだ。大体はメジャーレーベル(Vrgin、Universalなど)に傘下として入る代わりに出資してもらい、経営自体はコンサルタント(メリルリンチなどが有名)に任せるのだ。コレにより軌道ができればアーティストは曲作りに専念出来るし、やっぱり自分の会社なのでやりたいことが出来るから特色が出るので問題は無いのだ。しかし日本だとインディーズでちょっと成功したからといって自分でレーベルどころか会社も立ち上げ一人でやって大失敗してしまう。例えば傘下に入ったとしてもなんだかんだで親会社が介入して思ったようにやれない。かの小室哲哉がパイオニア傘下で「オルモックレコード」を立ち上げたが今や全く耳にしないことがわかるだろう。また自分で興すにしても日本の会社は登記は簡単だが法人税、所得税、固定資産税を含めた事業税や帳簿処理などは複雑極めるためアーティストが単独でやるのはほぼ不可能に近い。よってわかる人を雇いたい所だが日本にはコンサルティングのシステムが殆ど浸透してないためそれもままならない。会計事務所に頼むにしてもそこまで専属にやってくれるとなると無駄に高い金を取られてしまう。今のままでは欧米のシーンに追いつくには何年もかかる恐れがある。そして日本人でコンサルティング経営のできる人材が少ないのも大きな敗因だ。むこうではコンサルティング経営は固定給と歩合制で給料が増えることあっても減ることが無いのでコンサルタントは本気で経理をやりごまかしも皆無。だが日本では固定給が多く経理を丸頼みにすると使い込む輩が多い。そして問題は現在の経理のプロといわれる税理士、会計士にボンクラが多いことが最大の敗因だ!この辺の国家検定試験は決まった試験委員が問題作るため問題に革新的な変化が無く、それをとるための一遍的な勉強のため、勉強の段階で実践力が構築されない。その程度のつまらない勉強で全てを使い果たしたように資格を取ってから更に勉強しないお粗末ぶりだ。よって、今の日本で優秀なアーティストが埋もれるのは先進国らしからぬ大手の体制と人的資本の埋もれにあるのだ。
さて、そんな訳で今回はPushのTranzy State Of Mindをご紹介。池袋ディスクユニオンで¥600で購入した。2002年産と割と最近ながらこういう値段で買えるのはそれだけで嬉しい。実は個人的にPushあんまり音が好きではなく新譜だと躊躇うのだが、中古なら迷わず買えるのも中古ならではといえるだろう。ではMIXをみていこう。
まずはClub Mix。シンプルなベースラインにシンセのリフを重ねる展開が終始続き、音的に派手で面白い。こういってしまうと単純であるがなんともそうなので書きようがない。では使えないのかというとこのままでは使えない。当然プレイにはエフェクトを多様に使い毎回違うフロアを演出していきたい。ディレイを1/2で遅らせてかけるだけでも一気に異次元を演出できる。次にOriginal Mix。オープニングの入りは少し懐かしい感じのエピックハウスらしい入りだ。シンプルなトランスが好きならば嬉しい展開だ。しかしお楽しみはココからブレイク付近ではかのWestbumのCity of syanburaをパクッたベースラインになり一瞬飛ぶ展開になる。しかもブレイクは無音になったりするのでつなげという所なのだろうか?ブレイク明けも前半の繰り返しだけなのでこうつなぐほかない気がする。そしてボーナストラックとなっているThe Legacy(Svenson & Gielen Mix)。前二曲が特殊な感じだったので本来Push好きな人のためのフォローとも取れてしまう。開始一分くらいから派手目の音が出てきて上がってく音だ。ブレイク明けはもちろんドッと押し寄せるようなメインフレーズの応酬、でもそれほど派手すぎはしないので上手く使えば持続に使える。ピークの盛り上げ持続に使えるなら幅は広がるため思ったよりは使える感じだ。
少々辛口ではあるが一曲づつみるとそのジャンル畑ならそこそこ使える一枚だ。中古で買えば価値感も一気に変わるのが面白いところだ。出荷した方ありがとうございます!
After Love
artist:Blank & Jones
label:Nebula
中古を含めたクラブミュージックのコツの一つは流通の仕組みを理解する事だ。今回は流通を軽く解説しつつ曲を見ていこう。流通の基本は需要と供給であるのだがコレをクラブミュージックに置き換えてみよう。ご周知のとうり曲はたくさん出るのだが売れ筋の見極めが難しく入荷数も限られる。そして正直クラブミュージックの市場が少ないことも念頭に入れたい。こう見ていくと需要はそんなに無い。当サイトに来るような方は基本的に熱烈なクラブミュージックファンであることだとお見受けするが、音楽ファン全体からすると0.01%くらいだろう。だがそのファン層の人がその少ない需要を奪い合うので供給は多いことになる。毎月何十枚と出るレコード、CDSが二ヵ月後には殆ど残ってないのはこういうからくりがあるわけだ。ここで疑問を持つのは「何故もっと生産しないのか?」という所である。実はレコード、CDSの採算分岐点は非常に低いということだ。大体シングルを500枚生産すれば元は取れていると思っていい(ココでの「元をとる」は確実にレーベルや著作権者に利益のいく額)。外国では卸等に返品が出来ないため基本的には最低限+α、売り出しの手段としては約2000枚ほど一気に生産してそれを出荷、すぐに生産ラインを他の曲に切り替えてしまう、そして反響が多ければ再生産してなければ終わりなのだ。むこうのファンはこのシステムを理解しているから、いい曲はいつまでも持ち上げられるのだ。そして最終的な出荷数が実績となるのだ。日本の流通はくだらないことにチャートで初登場1位に拘るため初回生産とプロモーションが半端ではない。そのため在庫が余り易く、採算分岐点が低いのにその上がりを他の広告費に全て奪われてしまうのだ。それでどんどん衰退する。要は何が言いたいのかというとクラブミュージックは新譜にしろ中古にしろ「見つけたら買え!次回はない」ということである。中古の話をしておいてなんだが…欲しい曲が中古で買える保障はどこにも無いのだ!よって、新譜を買ってすぐに中古見つけたら運が悪かったと思ってあきらめましょう…。
全然関係なかったが今回のこちらBlank & JonesのAfter Loveは渋谷のディスクユニオンで¥400で購入。盤面は良質だったがジャケが煤けていた。Remix二曲入りであるが当然私が買わずともその日中には売れていたであろう内容だ。MIXをみていこう。
まずはSignum Remix。この時期ハードトランスを確立とも言える「Coming On Strong」をリリースしたのは有名だが、今回はその時の流行ともいえた綺麗系のトランスでのREMIXに仕上げてある。オープニングとその入りこそテケテケしたワープ的なベースラインだがすぐにシンセの上物とか細いサンプリングボイスが温かみをもって迎えてくれる。ブレイク明けはらしいアゲの音であるが落ち着いた音なのであまり嫌みはない。後半の締めの音も併せて過去レビューした「At
the End」に近いと思う、その曲とかビーマニトランスが好きならオススメしたい。次にMauro Picotto Remix。こちらは一転ダークでハードなハードハウス。サンプリングボイスくらいしか原型を留めていないのでかなりびっくりする。ベースラインはねちっこいプログレッシブハウスのようになり、上物は警鐘のような乾いた音、サンプリングボイスもボコーダーで妖しくなっている。だがそれが上手くマッチしてしっかりした音使いになるのは正にMauro Picotto流の魔術!後半派手な音も入るのでそれから切り替えたり、そのままデロンデロンに攻めても良いだろう。
出荷した方ありがとうございます!
Lift Off / Plomises
artist:Olmec Heads
label:Colourbox
今回からは趣向を凝らして、カテゴリには拘らず中古で入手した物をご紹介しよう。レビューと共に中古にまつわる話も絡めようと思うので参考になれば幸いだ。
そもそも中古レコードはどう出るのだろうか?今まで集めていた人が止めて売る、当然そうなのだが売り手の立場によって考えると結構違う物だ。まずはクラブミュージックそのものを止める場合…正直アナログは聞かなければ邪魔でしょうがない。ならば二束三文でもお金になるなら手放すだろう。大抵は100や200程度ではないので出張買取が多い。買い手側も出張買取する際にその辺を察するらしく安く大量に買い上げて流通させるのだ。大体店一店あたり一月に一回はあるというよって品揃えが一気に変わることもしばしばあるのだ。特徴としては有名曲が出やすく、価格も安いのが多いという客としてみれば一番嬉しい入荷だろう。次に、今までと音楽性が変わり止める場合…前述と違うのは売り手側が音楽を止めてないため、自分のスタイルに合わない曲を出荷するだろう。よってマニアックな曲が市場に出ることが多い。但し使い込んである場合もあるので盤面の質が落ちることが多い。そして転売目的…プレミア価格がついたものを売りに来る場合も無いとはいえない。買い手もしっかり鑑定するので盤面も良質なことがほとんどだ。ただ今はネットオークションなどの方が目立つので昔ほど無いのが実状ではなかろうか?
そんな所で今回のこちらOlmec HeadsのLift Off / Plomisesは池袋のディスクユニオンで¥400で購入、盤面は軽くキズがあった。二曲入りのEPであるがこの値段なら十分すぎる見返りはあった。そんなMIXをみていこう。
まずはLift Off(John 'OO' Flemming Remix)。このアナログの売りは当然リミキサーのJohn 'OO' Flemmingだろう。ミーハーからもコアな層からも支持される彼らしいMIXだ。オープニングはテクノ要素のある硬い音だが、すぐにシンセベースと上物が入ってくると王道的なトランスになってくる。こういったようにテクノベースにトランスの上物を乗っけているので正直少しクセはある。だが、前半と後半で同じ音が使ってあったり曲真ん中のブレイクも派手ではないので二枚使いによるロングミックスに使うと面白いだろう。今回はこちらのMIXの試聴を作ったので参考にどうぞ。次にPlomises(out There)、(尚副題はMIX名ではない)。こちらは割とシンプルなトランスで使いやすく残りにくい感じだ。オープニングのベースラインはハードだがシンプルだ。しかしベースラインがシンプルということは上物が目立つとも取れる。今回のコレもおかげで単打ちのピアノが綺麗に残る!そして中盤のシンセのアルペも上手く残る。更にブレイク自体も盛り上げには行かずおとなし目なので、後半にバレアリックサウンドの展開を考えてるならトランスからの飛び道具にはピッタリではなかろうか?
中古ではあるが十分使える一枚だ。出荷した方ありがとうございます!
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